熱風加熱(エアーヒータ)解説書
保証について
発熱体の寿命は保証対象外です。 それ以外の製造上の問題による不具合については納品後180日間の保証があります。保証は不具合製品の修理、修理不可能な場合には新品との交換により対応させていただきます。しかしユーザー様での交換費用、ライン保証など、それ以上の責についてはご容赦下さい。
1.熱風加熱の基礎知識
SAHシリーズ 熱風ヒータの特徴
SAHシリーズは発熱体と加熱気体が直接接触します。外径はコンパクトですが高密度発熱体により、その表面積は非常に大きく、加熱気体温度と発熱体温度の差は300℃程度(最新のSAHDは100~200℃)と非常に熱伝達効率が良いものです。そのため通過気体を約900℃(最新のSAHDは1100℃)まで加熱できます。
内蔵温度センサーの精度について
内蔵する熱風温度センサー(オプション)ですが、これは熱風温度の基準として使えるほどの精度はありません。熱風温度の設定は別の基準温度計により行い、そのときの内蔵センサーの温度を運用する場合の基準としてご使用ください。温度の再現性は比較的良好ですので、運用基準としては使用可能と思います。従ってヒータを交換した場合などは基準温度計による運用温度の再設定が必ず必要になります。
熱風ヒーター組込み温度センサの新標準 /+SC 方式の解説熱風ヒーターの吹出口から内部に外気が逆流する現象について
内蔵温度センサーの寿命について
温度センサーとして通常はK熱電対を使用します。しかしヒータのサイズによっては十分な太さの熱電対が使えません。金属ケースがφ13、Φ19のタイプでは素線径がφ1.0,金属ケースがφ8のタイプではφ0.5のものしか使えません。
温度センサーは発熱体の中央を通る構造のため、発熱体とほぼ同じ温度にさらされる事になります。それでも多くの場合は熱電対の寿命が問題になることはございませんが、SAHヒータを特に高温でご使用になる場合には内蔵温度センサーの寿命が不十分になる場合があります。このような場合には内蔵温度センサーをNタイプ又はRタイプ(白金系)でご指定ください。型番に追加するオプション記号は /+S(N)、/+S(R) です。
N熱電対は最近使われることが増えている熱電対でありKタイプよりも100~200℃耐熱限界が高いので高温使用の熱風ヒータ用として適しています。しかし融点自体はKタイプよりむしろ低いので、異常な短時間昇温にはむしろ弱く、注意が必要です。
温度センサーのリード線は細いので小Rで曲がりやすく、自動機などの動く部分に設置した場合、繰り返しの曲げが加わり、その変形が1ヶ所に集中し疲労断線する事がよくあります。曲げ変形量が大きい場合は数百回で疲労断線することもあります。さほど変形量が大きくなくても、数千、数万回と繰り返されると疲労断線します。これは自動機の場合、マシンタクトによっては数日以内で疲労断線する可能性があるということです。
このような動く部分に取り付ける用途の場合、その動く部分に中継端子等を設け、ヒーターからのリード線はいったんその端子に接続してください。そしてその端子から外部の固定部分にかけては、柔軟なケーブルを使い、疲労断線が起こらないようにしてください。このケーブルが常温であれば、導体材質はなんでもかまいません。しかしこの部分が高温になる場合は温度測定誤差が増えますので補償導線を使う必要があります。尚、疲労断線は温度センサーリードで起こりやすいですが、電源リード線でも起こり得ます。
CLHシリーズの熱風ヒータ(クリーンヒータ)
CLHシリーズ クリーン熱風ヒータの特徴
CLHシリーズは発熱体もセンサーも石英ガラスのカプセルに密封されています。そのため発熱体やセンサーは加熱気体と直接接することはないので、これらから発生する酸化物などの塵が加熱気体に混入しません。
ただし発熱体が石英カプセルを通して通過気体を加熱する方式なので、熱伝達効率はSAHタイプより劣ります。そのため最高熱風温度は約500℃です。
この発熱体は酸化雰囲気で使用する必要がありますが、カプセル内には上記「耐熱ゴム管」を通して呼吸作用により外気が供給されます。カプセル内部気体の熱膨張による圧力上昇もこのゴム管を通して逃がしています。
内蔵温度センサーの精度,内蔵温度センサーの寿命について
基本的には前記した通常のSAH,SAHDタイプの場合と同じです。
SAH,CLHシリーズの型名表記方法について
型名の例 SAHD100v-350w10PS/+S型名の解説 下記参照。 詳細は「型名表記法」参照
- SAH
- SAHタイプの熱風ヒータであることを表す
- SAHD
- SAHDタイプの熱風ヒータ(HDコイル採用)であることを表す
- 100v-350w
- 定格電圧と電力
- 10
- 10シリーズを表す。10シリーズとは加熱管(石英管)外径がφ10
これに適合する金属ケースとしては通常φ13を使用する。 - P
- 熱風吹出口の形状。Pタイプは吹出口がネジの仕様
- S
- Sシリーズを表す。Sシリーズとは標準型熱風ヒータで、金属ケース入り。エアー入口は管用ネジ
- +S
- 温度センサー(K熱電対)組込型であることを示す
R熱電対は+S(R),N熱電対は+S(N)
簡単な熱風ヒーターの使用方法(例)
上図は実体接続図の一例です。実際の加熱実験ビデオが「実験室」ページにありますので、参照して下さい。
上図の圧縮気体源としては0.5気圧(0.05MPa)程度以上の圧力が適しています。これ以下の圧力だと設定条件に制約が出来る場合があり十分な気体流量が流せない事もあります。大部分の用途では50kPa 程度で間に合うとおもいますし、もっと低い圧力でも使える場合もありますが、少なくとも5kPa(0.05気圧)以上はないと、おそらく実用になりません。従ってシロッコファン等は使えません。最近の技術で作った超コンパクトで大電力,1000℃超の高温熱風に対応した高圧損タイプは0.1~0.3MPa程度必要です。
20kPaは安価な電磁ブロアでも出せます。ロータリーブロアならば50kPa程度まで出ます。コンプレッサーなら500kPa以上まで出ます。
圧力が必要以上に高くても、流量調整バルブなどを通すことにより簡単に圧力は下がりますから問題ありません。むしろ高い圧力の気体源(例えばコンプレッサーのエアー)は使い勝手が非常に良いのですか、必要以上に高い圧力のエアーは作るのに大きなエネルギーを要しますから、エネルギー経済性の面ではロスが多いと言えます。
→コンプレッサーは100w当たり約12L/min.のエアーしか得られない。それに対し電磁ブロアやロータリーブロアは100w当たり約80L/min.のエアーが得られる。
各種エアー源については「エアー源」を参照してください。
エアーヒータを使用する場合の操作手順ですが、基本的には以下の(1)~(3)のようになります。
(1)圧縮気体を供給する
(2)必要な熱風温度になるように電圧を加える
(3)加熱対象物にノズルを向け加熱する
次項以降ではこの順を追って解説しています。1-1.圧縮気体を供給する
気体の種類と使用可否は下記の通り。これらの気体以外の場合は別途ご相談下さい
気体の種類 | 使用可否 | 注意点,その他 | |
SAH | CLH | ||
エアー,酸素 | ◎ | ◎ | オイルミスト,水などを多量に含まないこと |
窒素,アルゴン | ○ | ◎ | 不活性ガスは全て使用可。ただしSAHの場合はエアーに比べ寿命は短くなる傾向にあります |
水素 | △ | ◎ | 600℃以上では空気中に出た時点で発火 |
グリーンガス | △ | ◎ | 窒素に少量水素を混合したガス。還元性 |
水蒸気 | △~× | ◎ | SAHの場合は困難(水滴により漏電) |
都市ガス,LPG | × | × | 熱分解し、発熱体に炭素が付着するため |
※エアヒータに使用している電熱線は酸化性雰囲気で、最も耐久性があります。
※SAHタイプは電熱線が気体と直接接触しますので、熱伝達効率が高く、高温(約800℃)が得られます。
※CLHタイプは電熱線と気体が接触しません。そのため扱う気体の制約は少なくなりますが、少し大きなサイズとなり、熱風温度も500℃程度までです。
※必要とする圧力や流量
必要とする圧力は、流そうとする流量やガスの種類,エアヒータのノズルサイズや構造などにより大幅に異なるので、一般的なデータは提供できませんが、5~50kPa(0.05~0.5kg/cm^2)程度の範囲になるとおもわれます。
一部の品種については測定データかあります。「代表的な熱風ヒータの特性」を参照して下さい。
この必要圧力以上が供給できる圧縮気体源としては、エアーであればコンプレッサや電磁ブロアやロータリーブロアなどです→各種エアー源については「エアー源」を参照してください。
必要とする流量は、加熱対象や目的により大幅に異なります。最も標準的なエアーヒータであるSAHシリーズの100v-350wタイプを例に取れば、単純に加熱すればよいのであれば 20~50L/min程度.の流量範囲で設定すれば良いでしょう。
低温(400℃以下)で大量の熱風が必要であれば大流量で定格電圧、又は過電圧(~200%)を加えてもかまいません。電圧が200%では電力は約4倍になります。しかしこのような使い方の場合、トラブルでエアーが短時間でも止まると、ほとんど瞬時に断線してしまいますので、使い方としてはお勧めしません。定格電圧又はそれ以下で使うのが安全です。
高温熱風が必要であれば約 15 ~ 20 L/min で定格電圧近く(100 v) を加えます。更に高温が必要な場合は流量を更に絞り(数L/min.)、電圧もそれに応じて下げて使います。
風圧により対象物が吹き飛ばされたりする場合には、やや大きめのノズルを持った機種を選択し、数~十数 L/min. の低流量で、電圧も絞って使用します。ハンダ付けには1点ハンダの場合、φ4~φ6のノズルを使い、5~10L/min の気体を供給し、50~80%の電圧を供給(熱風温度約600℃)して使います。
吹き飛ばされないようにする方法としてエアヒータを2本使い、それを1ヵ所に向けてV字型配置で使うと、その合流部分に無風に近い状態ができ、吹き飛ばされる事が少なくなります。ハンダ付けにはこの方法も使われています。
ICのハンダ付けやハンダ外しなどには、専用形状のノズルを使うと効率的です。標準品で対応できない場合、専用のエアーヒータを特注いただくか、又は先端がネジのエアヒータを使用し、ノズルのみを最適設計して使用する方法があります。
エアーヒータSAHは定格電圧を加えた状態でエアーが停止すると短時間で焼損します。経験的にはこのトラブルが最も多いですから、フロースイッチや圧力スイッチでインターロックされることを強くお勧めします。
上記はSAHタイプの例ですが、CLHタイプはSAHタイプよりも必要圧力は低めです。(5kPa程度)
※安定した流量を得るには
流量を安定させることが熱風温度を安定させ、加熱のバラツキを減少させます。また作業の再現性を高めるためには流量の値を管理する必要があるでしょう。これらのためには圧力調整器や流量計は是非ほしいところです。さらにコストは高いですがマスフローコントローラを使われるのがベストでしょう。尚これらは使用する気体の種類などにより選択しなくてはなりません。
1-2.電圧を加える。熱風温度制御など
圧縮気体を供給したら、ノズルから正常に気体が吹き出している事を確認し、必要とする熱風温度に達するまで電圧を加えていきます。この時、熱風温度が完全に安定するまで数十秒間を要しますので、必要以上の熱風温度にならないよう、この時間遅れを考慮して下さい。
※温度を上げ過ぎて焼損させないための注意事項
熱風温度センサー組込型のエアーヒータの場合は、熱風温度が800℃を超えないように管理すれば安全です。700℃以下であれば、殆ど消耗しません。ただし最近の技術を取り入れたSAHDタイプ゚の場合は900~1000℃超でも使用可能です。
発熱体の温度が1200℃を超えると短時間でも危険です。熱風温度センサーが組み込まれていないエアーヒータの場合、高温限界付近で使われる場合には必ず発熱体温度を監視して下さい。温度測定の方法はパイロメータなどの非接触測定法が適しています。簡易的には基準熱源の発熱色と目視で比較する方法等もあります。
エアーヒータの発熱体高温限界の管理を熱風温度で行う場合で、センサーの組み込まれていないエアーヒータを使い、外部から温度計で熱風温度を測定する場合は問題を生じる事があります。熱風温度の最高値は発熱体の終端付近での値であり、ノズルの種類によってはノズルで冷却され、ノズル出口では低い値を示す事があります。
また熱風は空気中に放出されると、空気を巻き込んで急激にその温度を下げます。また吹き出し口からは外気が逆流して入ってくるという現象もあり、これがあると実際の熱風温度よりも200℃以上も低い値を示す場合があります。従って熱風温度はどのような場合でも、どのような測定方法でも最高温度が得られるというわけではありません。したがって、ノズル出口で測定した値を信じて最高温度になるような電圧を加えると発熱体が過熱して溶断する事もありえます。
熱風温度センサー組込型のエアーヒータの場合も逆流現象の影響は受けますが、比較的軽微であり、特にSC方式の熱電対ならば熱風温度で管理しても比較的安全に使えます。
1-2-1.電圧調整の方法について
電圧はライン電源から直接接続してもかまいません。この時は常に100%電圧に置ける最低必要流量のエアーを流しておいてください。例えば350wの熱風ヒータならば 15~20 L/min程度以上です。しかし多くの場合、電圧は調整できたほうが便利なことは言うまでもありません。電圧の調整には電圧調整器を使用します。電圧調整器には大まかに言って2種類あり、1つは捲線式(商品名はボルトスライダやスライダックなど)であり、もう1つは半導体式(商品名はSCRスライダーやバリタップ等)です。
実験的な御使用には捲線式をお進めします。理由は堅牢であることと供給電圧以上まで昇圧できることです。一般に捲線式は電源電圧の0~130%まで調整できます。これに対し半導体式(SCRやトライアックによる制御)は調整範囲が0~95%程度です。
半導体式の利点は軽い事、大電力では安価なこと、自動制御しやすいことなどであり、これらの御要求がないかぎりは捲線式が無難です。半導体式は電圧の測定にも注意が必要です。電圧計の種類によっては正確な値を示しません( デジタル式の場合「真の実効値型」、アナログメータなら「可動鉄片型」ならば正確な測定が可能) 。
非常な高精度で加熱制御する事が要求される用途では電源電圧を安定化する必要があります。この場合、電圧調整器の前に交流安定化電源を設置して下さい。
しかし電圧を安定化させるのは理想ではあるのですがコストが高くつくので、多くの場合には温度センサー付きのエアーヒータを使い、それを温度調節器と電力コントローラを使って一定温度になるようにエアーヒータをコントロールする方式が一般的になっています。→「電源,コントローラ」
半導体式の電圧調整器は通常は位相制御によって実効電圧を変化させていますが、多くの温度調節器などは半導体リレー(SSR)によるON-OFFでヒーターを制御しています。しかしSSRによる制御はエアヒータの場合、応答が早すぎるので注意が必要です→理由は下記参照。
1-2-2.温度調節器を使われる場合
温度センサー付きのエアヒータを使い、温調器で熱風温度のコントロールをされる場合には下記のような注意が必要です。
1)エアー流量が極端に少なくなった場合、発熱体の温度が高いにもかかわらず熱風温度が低く測定されるので、その値を信じているとヒータが焼け切れます。温調器を使われる場合には必ず最低限必要なエアー流量(数L/min.程度)が確保できるように配慮してください。(フロースイッチにより監視するなど)。ただしSC方式の温度センサー方式であれば、流量低下に対しても比較的安全です。
2)エアーヒータは発熱体の応答速度が極めて早いので、通常の電気炉の制御などとは違った配慮が必要です。
※単純なON-OFFによる制御では絶対にダメです。
※サイクル制御は場合によっては可です。
サイクル制御は、サイクルタイムが1秒間以上のものは使えません。ヒータの応答速度が早いので、1秒間周期でもヒータが点滅状態になります。エアーヒータの発熱体は激しい温度変化があると著しく寿命が低下しますので寿命が1/100以下になる場合もあります。
制御周期は0.25~0.3秒間の物を使用してください。この制御周期であれば問題ありません。
※最も好ましいのは電圧制御(SCR,トライアックなどによる位相制御など)ですが、サイクル制御でも制御周期0.3秒間以内であれば、ほぼ遜色ありません。
この場合でもPID値等には注意してください(多くのSAHタイプの推奨値はP=40,I=25,D=1)。電気炉などとは応答速度の桁が違います(数百倍程度)。位相制御はヒータにとっては好ましいですが、電源サイドから見ると、必ずしも好ましい負荷ではありません。またノイズ発生の問題も有ります。そのためサイクル制御か位相制御か、どちらをお勧めするべきか迷うところです。しかし最近は制御周期の短い温度調節器が入手しやすくなりましたので、今後はサイクル制御を選択するのが良い方向ではないかと思います。
※温度調節器のP、I、D値設定について
温調器を使う上で最も重要なのはP・I・D値の設定です。これを決める方法として温調器にはオートチューニング機能が有ります。しかし場合によっては推奨値P=40,I=25,D=1程度から微修正した方が結果が良い場合があります。ただしSC方式の場合は応答速度が遅いので、低流量域ではP値が2~3倍必要な場合もあります。
安全に運転するにはP値を40程度にし、I値で応答速度を調整します。オーバーシュートする様ならI値を大きくします。それでもだめならP値、I値ともに大きくします。速い応答速度を求めるならI値又はP値を小さくしますが、オーバーシュートしやすくなりますから慎重に扱ってください。オーバーシュートするとヒーターを痛め寿命を縮めます。瞬時断線もあり得ます。
AT時の最低エアー量 F=45×電力÷900 |
|
定格電力 | 最低エアー流量 |
350w | 18L/min. |
440w | 22L/min. |
1kw | 50L/min. |
2kw | 100L/min. |
3kw | 150L/min. |
6kw | 300L/min. |
オートチューニングをされる場合はエアー量を上の数値以上で行ってください。これ以下の流量でオートチューニングされると、この操作中に1000℃を超える熱風温度に達し、瞬時に焼け切れる場合があります。
オーバーシュートを防ぎヒーターを守る最も有効な手段は出力制限をかける事です。この温調器では「oh-1」に制限する%数値を入れれば、それ以上の出力はしなくなります。必要以上の電力を加えなければヒーターは焼損しません。
ヒーター定格電力をP[w]、エアー流量をF[L/min.]、熱風温度をT[℃]とすれば出力制限値は
出力制限={(0.02×F×T÷P }×125
温調器のoh-1に上記数値を入れておけばヒーターを瞬時に焼き切る恐れはほとんどなくなります。ただしエアーが規定通り流れていた場合に限ります。立ち上がり時間を早めるには上記数値を少し大きくします。ただし大きくすればヒーターを痛め断線するリスクは上昇していきます。
特に速く立ち上げる必要が無ければ、ヒーターはゆっくり立ち上げた方がヒータは長持ちします。また冷却時も注意が必要になる場合があります。大流量エアーで使用される場合、エアーを流した状態で電源を切ると各部で急激な熱収縮が起こり、絶縁物や発熱体にストレスを与え、割れや金属疲労による寿命短縮、トラブルの原因になります。冷却も大流量では急冷にならない様な配慮が必要になる場合があります。
1-3.加熱対象物に熱風を吹きつける
ノズルから吹き出した熱風は、周囲の空気を巻き込んで急速に温度を下げます。少しでも高温度が必要であれば、ノズル先端に加熱対象物をできるだけ近づけて下さい。なお、周囲の空気を巻き込むのを防ぐようなフード類や整流器を設けると外気巻き込みによる温度低下を緩和する事ができます。
無酸化加熱の為に窒素ガスなどを使っても、通常の方法では周囲の空気を巻き込んでしまうため、酸化を完全に防ぐ事はできません。これについてもフードなどで周囲の空気を巻き込まないような工夫をすれば、ある程度の無酸化加熱は可能になります。
1-4.熱風温度を求めたり機種選定をするための計算方法について
エアーヒータから吹き出す熱風温度をT [℃] 、この時のエアー流量をF[L/min.]、エアヒータの消費電力をP[w] とすれば、
50×P
T ≒──────── [℃]
F
P ≒0.02×F×T [ w]
50×P
F ≒──────── [L/min]
T
上記式の定数0.02と50は、熱風温度が比較的低い場合です。高温熱風の場合は0.022,45.5を使ってください。(空気の熱容量は高温では増大していくため)
上式より流量Fを増やせば熱風温度Tは下がりますし、Fを減らせば熱風温度が上ります。ただし、熱風温度が上限温度を超えますと過熱状態となり断線しますので、必ず上限温度以下になるように設定してください。
Fが決められている場合には目的の熱風温度Tにするためにヒータ消費電力Pを変える必要があります。Pが選定したエアヒータの定格電力よりも大いものが必要な場合にはエアヒータの機種選定を変更して、もっと大出力の機種を選ぶ必要があります。
Pが選定したエアヒータの定格電力よりも小さい場合には、供給電圧を下げる事で対応できます。電圧をコントロールする方法については前記したとおりです。
※上記の計算式では熱効率を無視しています。しかし実際には熱ロスを考える必要があります。通常は熱効率が90%~80%程度ですが、エアー温度が高く低流量の場合ほど熱ロスが大きくなり熱効率が低下しますので、低流量の場合には50%~60%の熱効率になることもあります。逆に大流量の場合には熱効率が95%以上にもなります。
※エアヒータの容量についてですが、30w~70,000wの範囲で製作実績があります。また、どのような特注仕様でも可能であれば製作致します。
1-5.エアーヒータの寿命について
エアーヒータの寿命については御使用方法により全く異なる値になりますので、具体的な数値は提示できませんし、寿命についての保証もできません。寿命予測の最も正確であろうと思われる方法は、御使用状態での発熱体の最高温度をパイロメータ等の非接触温度計で測定し、その温度から下記グラフより発熱体寿命を推定します。
また発熱体温度は熱風温度より約300℃ほど高い値になりますので、熱風温度から発熱体温度を推定する事も可能です。ただし流量によってこの温度差は異なりますので、かなり不正確な推定になります。これからすると熱風温度800℃であれば発熱体温度は約1100℃で寿命は控えめに見て約1000時間、熱風温度700℃以下であれば発熱体温度が1000℃以下となり寿命値は無限大に近づき、寿命は考慮しなくてよい、という事になります。
ただしこれは一般的な話であり、個々の条件で大幅に異なった結果となります。前記したように電圧制御の方法によっても大きく影響を受けますし、振動や衝撃,エアーに含まれる不純物(水や油,金属粉)によっても影響を受けます。
ヒータの寿命は各種の要因がからんでくるので、簡単には予想できません。使用される熱風温度に対する予想寿命は下記の通りです。この値は電熱線の太さでも異なります。この寿命は電熱線径がφ0.5程度のものです。もっと細い(定格電流値の低い)エアーヒータの場合、寿命値はもっと短くなります。
しかし実際には正常な消耗で断線に至るのはむしろ少なく、ご使用時の制御ミスなどにより過熱断線に至るケースが多いです。
通常のSAH型は熱風温度に対して発熱体温度は約300℃高めの値になります。従って
熱風温度850℃ → 発熱体 1150 ℃ → 上図より 300 時間程度の寿命
熱風温度800℃ → 発熱体 1100 ℃ → 上図より 1000~2000時間の寿命
熱風温度700℃ → 発熱体 1000 ℃ → 上図より ほとんど半永久的寿命
ただし熱風温度と発熱体温度の差は流量によっても変化し、一般的に流量が大きくなるほど差も大きくなります。必要な寿命時間を確保した上で出来るだけ高温の熱風を得るには、この差が出来るだけ小さい方が望ましいので、従ってエアー流量を少なく設定すれば高温熱風を得ることができるだろうと期待できます。
高温用として使われる場合の一例としては、実際に加える電圧を定格電圧の60%前後(電力では定格の約1/3)にとどめ、エアー流量をそれに応じて低下させれば発熱体温度約1100℃で900℃程度の高温熱風も得られます。
最近の技術で高性能化したSAHD型は従来仕様のSAH型よりも100℃以上改善されており高温熱風に対応できています。
このようにSAHヒータの寿命は主に発熱体温度により決定されます。しかしヒータの寿命に関してはメーカとしての保証は困難です。
以下の2.~5.で色々なレベルでのご使用方法について解説しています。簡単な必要最小限の構成から、高度な制御方法までご紹介しています。
2.簡易的な構成による使用方法
簡易的な使用方法として、電源(定格電圧)をエアーヒータに直接接続してもかまいません。ただしその場合、最低流量のエアーは流しておかないと十数秒間以内にヒータが焼損します。
最低流量Fmin.は下式を目安にしてください。
Fmin.=0.05×電力 [L/min.]
例えば100v-350wのヒータに100vを加えた場合の最低流量はFmin.=0.05×350≒18 L/min.
ただし上図のように流量計も温度計もない場合は、SAHの限界に近い高温域でのご使用は避けるべきです。そのため最初は十分に大きな流量を流しておき、通電開始後30秒間程度待って温度が安定してから「流量調整バルブ」を絞っていき、エアーヒータの発熱体の先端部 1/3程度が暗く赤熱する程度(熱風温度は約600℃)まででご使用ください。それ以上の高温(エアー流量を減らす方向の操作)で使われる場合には次項以降の方法(温度測定付き)でご使用ください。
エアーに水や油が含まれていますと流量計やエアーヒータに悪影響します。必ず油と水分を除去したエアーを使用してください。
3.一般的な構成による使用方法(コンプレッサーエアーを使う場合)
一般的にはエアーの流量を確認できるようにするべきですが、これには流量計が必要です。流量計は上図のようなフロート式が多く使われています。この流量計は圧力により指示値が違ってきますので、指定圧力で使う必要があります。フロート式以外ではデジタル式の流量計(マスフローメータ)などもあります。
上図の場合、出来れば指定圧力が300kPa(3kg/cm^2)程度 の流量計を使い、圧力調整器で常にその圧力が加わるように調整します。流量は図の様に流量計の出口側に設けた流量調整バルブにより調節します。
尚、この流量調整バルブは流量計に組み込まれている場合があります。その場合、入口側に組み込んである機種もありますので、「出口側バルブ」と指定し、使用圧力,使用する気体の種類を指定して購入する必要があります。
この方法は圧縮気体源に高い圧力が必要ですので、コンプレッサーエアーを使う場合などに適用できます。もし流量計が購入済みで、指定圧力のないもの(常圧で使うもの)であった場合には次項(4.エアー源に低圧のロータリーブロア等を使う場合)の接続方法にしてください。
熱風温度は監視した方が作業の再現性確保、ヒータのオーバーヒート防止などに有用です。その場合には温度センサー付きの機種(オプション/+S)を使ってください。そしてこれに熱電対温度計(標準はK熱電対)を接続してください。
詳しくは「エアー源」を参照してください。熱電対についても「熱電対」を参照してください。
エアーに水や油が含まれていますと流量計やエアーヒータに悪影響します。必ず油と水分を除去したエアーを使用してください。
4.一般的な構成による使用方法(低圧のロータリーブロア等を使う場合)
エアー源が電磁ブロアやロータリーブロアなど50kPa 程度しか得られない場合には圧力調整器は使えません。この場合には上図の様に流量調整バルブは流量計の前に配置します。あるいは流量調整バルブは省略します。流量計は圧力指定のないもの - - つまり常圧で使用するタイプを使用します。
この方式は、できれば流量調整バルブを省略してエアー源そのものをコントロールして流量調整する方が望ましいです。流量調整は電磁ブロアの場合は供給電圧のコントロールで、ロータリーブロアのようにモーターを使ったブロアはインバータを使用します。「エアー源」を参照してください。
もしくは必要なエアー量を発生できるぴったりの大きさのブロアを使い、流量調整バルブを不要にするか、又はあまり絞り込まなくてもよいようにする事です。
なぜなら流量調整バルブを絞り込むとエアー源の圧力が高くなるので、エアー源のブロアに悪影響(故障や寿命短縮)が出る場合があるためです。(電磁ブロア等には一般的にコンプレッサーのような圧力スイッチは付いていませんので、エアー吹出口を塞ぐと異常に圧力が上昇します)
またバルブで絞ると、その出入り口間で圧力差が発生し、バルブ通過時に気体が断熱膨張で温度が低下し、結露して水滴が発生しやすくなります。この水滴が流量計やエアーヒータに悪影響します。(低圧エアー源には一般的にエアードライヤー等の装置が付いていないため、水滴の発生には注意が必要です。)
エアー源そのもので流量調節できない場合で流量を大きく絞り込む必要がある場合には、下図のように解放バルブを設けて不要なエアーを捨てるようにしてください。こうすればブロアを傷めることは回避できますし、水滴の発生も抑制できます。
5.高安定な構成(温度調節器を使用する場合)
センサー付きのエアーヒータを使用し、それに温度調節器と電力コントローラを組み合わせると常に一定温度にコントロールされた熱風が得られます。
流量調整可能な圧縮気体源は前記した[図-3]~[図-5]の様な構成でもよいですし、コストの制約が無ければマスフローコントローラを使う方法もあります。流量を変化させても一定温度の熱風が得られるので、例えば待機時は流量を少なくして消費電力を抑えるということもできます。
ただし、エアー流量をゼロにしてしまうとエアーヒータのセンサーが機能しないためにエアーヒータに大電力が加わり続け、十数秒間以内に焼損することがあります。必ず最低限の流量は常に流しておくようにコントロールしてください。この流量は標準的な10シリーズで3L/min.程度、15シリーズで6L/min.程度です。
温度調節器は制御機器メーカー各社で販売しています。詳細は 「電源,コントローラ」を参照してください。
上図はSCR電力コントローラを使う方式ですが、SSR(無接点リレー)を使う方式もあります。この場合には温度調節器をサイクル制御型(制御周期0.5秒間以下)のものに変え、1秒間に2回以上のon-offを繰り返してon時間とoff時間の比で電力をコントロールします。
これも前記した「電源,コントローラ」で詳細をご紹介していますので参照してください。
エアーに水や油が含まれていますとエアーヒータに悪影響します。必ず油と水分を除去したエアーを使用してください。
6.電磁弁でエアーをON-OFFさせる場合の構成
電磁弁でエアーをON-OFFさせる場合には、上図の様に電磁弁と並列に流量調整バルブ(L調整)を設け、電磁弁がOFFのときでも最低流量が確保されるようにしてください。
また電磁弁は流量調整バルブ(H調整)の上流に設けてください。これが逆になりますと電磁弁をONした瞬間に高いエアー圧がエアーヒータに加わり、ヒータに悪影響します。
上図の構成だと電磁弁がOFFの間、熱風温度はONの時と同じで流量のみが低下して待機状態になります。電磁弁がONになると素早く所定の温度の熱風が得られます。
ONにした時の熱風温度立ち上がりに時間がかかってかまわなければ、電磁弁がOFFの間、ヒータへの供給電力もOFFしてください。この場合の最低流量はゼロになりますので、L調整バルブは完全に「閉」でもかまわないのですが、ご使用条件によっては電磁弁をOFFにした後に発熱部の熱がヒータの根元側(エアー入口側)に伝わり、リード線などの温度が限界以上に上昇してしまう場合があります。この熱の逆流を防ぐためにはヒータへの電力供給をOFFした後も少しだけエアーを流しておいてください。
前項でご説明したとおり、SCR電力コントローラはSSRでも動作可能です。(温度調節器は制御周期0.5秒間以下のサイクル制御型を使用)
エアーに水や油が含まれていますと流量計やエアーヒータに悪影響します。必ず油と水分を除去したエアーを使用してください。