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−詳しく知りたい人のためのハロゲンランプの知識−
製造技術も含めたハロゲンランプの詳細を解説します。
ハロゲンランプの概要 |
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真空電球とガス入り電球 |
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不活性ガスの種類 |
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封入ガスの電球バルブへの高圧封入法 |
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ハロゲンガスについて |
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ハロゲンランプの封止について |
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モリブデン箔による封止の問題点 |
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封止部の耐熱性を上げる対策 |
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石英以外のガラスを使ったハロゲンランプ |
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フィラメントコイルについて |
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フィラメントコイルの設計 |
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フィラメントコイルの製造方法 |
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2重コイルフィラメントの製造方法 |
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タングステンの熱処理 |
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タングステンコイルの表面処理について |
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ハロゲンランプの石英バルブについて |
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石英ガラスの表面洗浄処理 |
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石英ガラス加工 |
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石英ガラス加工後の歪み除去 |
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石英ガラスの失透現象 |
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ハロゲンを使わない石英タングステンヒータ |
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交流点灯と直流点灯、低電圧点灯 |
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ハロゲンランプ内部の化学反応と制御方法 |
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ハロゲンランプ用電源,コントローラについて |
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ハロゲンランプの概要
ハロゲンランプは不活性ガスを主成分とする封入ガスの中に微量(0.1%程度)のハロゲン元素(主に臭素)を入れたものです。
これによりハロゲンサイクルという化学的循環が起こります。これを説明しますと、まず点灯中は非常な高温で白熱しているフィラメント(材質:タングステン)からさかんに蒸発するタングステン原子は比較的低温部でハロゲンと化合します。→もしハロゲンが無いと蒸発したタングステンはガラスバルブ内面に付着し、黒化するので明るさが減少していきます。
この「タングステン-ハロゲン化物」は蒸発しやすい物質のため、約250℃以上ではガス状を保つ事ができます。そしてハロゲンランプは点灯中のガラスバルブ内壁温度がどこでも250℃以上になるように設計されています。
そのため、このガス状になった「タングステン−ハロゲン化物」はガラスバルブに付着することなくガラス管内をただよい、そのうちそれがフィラメント近くに来ると、その高温により熱分解してタングステン原子とハロゲンに戻ってしまいます。
ここで分離したハロゲンはまた再利用されて前記の反応を起こし(ハロゲンサイクル)タングステン原子の方はフィラメントのすぐ近くで放出されるのでフィラメント近傍のタングステン蒸気が飽和状態に近づき、マクロ的には蒸発が無くなったかに見えます。
しかし実際には蒸発,再付着が頻繁に起こっており、フィラメント表面は時間経過とともに凹凸になっていき、そのうち断線に至ります。このような理由でハロゲンサイクルそのものによる電球の長寿命化はほとんど期待できず、むしろハロゲンの腐食作用による寿命の悪化傾向の方が問題になるほどです。
しかし蒸発したタングステン原子がハロゲンサイクルによりガラスバルブへの付着(黒化)が防げるというのは大きなメリットです。ランプが暗くなっていくのを防げるだけでなく、黒化がないのでガラスバルブを耐熱限界まで小さくすることができ,一般電球の約1/50にまで小さくできました。一般電球ではガラスバルブを小さくすると蒸発したタングステンが濃く付着してすぐに黒くなります。この影響を軽減する為にもバルブはできるだけ大きくする必要がありました。
ハロゲンランプが小さい事そのものも大きなメリットですが、小さなガラスバルブは大きな封入ガス圧に耐えるので、ハロゲンランプは点灯中は数気圧から20気圧近い圧力となるように設計されています。一般電球は点灯中に大気圧(1気圧)程度になるように設計します。従ってその圧力差は10倍以上にもなります。
この封入ガス(主に不活性ガス)の高圧封入によりフィラメントの蒸発を抑える事ができ、一般電球の2倍以上の寿命を獲得しました。またガラスバルブ内容積が小さいことは封入用不活性ガスとして高性能だけれども非常に高価なガス(クリプトンやキセノン)を経済的に使用可能とし、これによる特性改善も大きなものがあります。
可視光を増やして発光効率を上げる試みとして、赤外線反射膜をガラスバルブにコーティングする、という事も行われています。この赤外線反射膜は照明にとっては不要な赤外線を反射してフィラメントに戻すことにより、熱ロスを減少させ、発光効率を向上させるものです。
この方法が有効なのも、バルブが小さいためといえます。大きなバルブだと余程高精度に作り込まないと効果はでません。ただしこれによる発光効率の向上は実際には7%〜12%程度が見込める程度です。宣伝文句によくある数十%UPとか2倍とかは絶対に無理です。
またハロゲンランプは「寿命が3倍以上で、明るさが2割以上UP」などとコマーシャルされている場合がありますが、正確には「明るさが同じなら寿命が3倍以上、又は寿命が同じならば明るさが2割以上UP」です。ハロゲンランプも一般電球も明るくすれば寿命が犠牲になる、という関係にあります。ハロゲンランプは電球の画期的な改良技術ですが、画期的なのは小さい事と光束安定性であり、明るさや寿命の改善は画期的というほどでもないです。
ハロゲンランプの光束安定性(使用しているうちに明るさが減衰していく割合)は寿命末期まで5%程度の低下しかなく、これは他の光源(蛍光灯,HIDなど)に比べ約1/10です。
ハロゲンランプは可視光を得る手段としては非常に効率が悪く、どんなに改良しても蛍光灯やHIDランプ,LEDに対抗できるとは思われません。現在のハロゲンランプの発光効率はランプ寿命を2000時間、電力を50w〜100wとすれば良くて20Lm/w程度であり、蛍光灯の80Lm/W,HIDランプの80〜100Lm/wとは比較の対象になりません。
光束安定性を考慮すれば差は縮まりますが、実際にはハロゲンランプの寿命を蛍光灯並の6000時間とかに設定すれば、発光効率は最高でも16Lm/w程度にしかなりません。
現在はLEDの一般市販品でも蛍光灯並の発光効率(量産品:60〜100Lm/w)に達し、近い将来には1灯当たりの光出力が500Lm以上、発光効率も150Lm/w以上が見込まれており、寿命も数万時間のレベルですので、照明用光源の大革命が起こっています。
※Lm/w(ルーメン パー ワット)は発光効率の単位。1w当たり何ルーメンの光束が出せるかという単位。Lm(ルーメン)は光のエネルギーに、その光の波長に対する人の眼の感度を掛けたもの。人の眼の最高感度は約0.5μm(緑色)にあるので、発光効率からだけ言えば、この波長のみ出すのが一番発光効率が良くなる。しかし照明用には白色光でなくてはならず、白色光は0.4〜0.8μm程度の範囲にバランス良く(必ずしも連続スペクトルである必要はないが)分布していなくてはならない。そのため発光効率は制限される。前記した各ランプの代表的数値は白色光を前提としたもの。
このようにハロゲンランプは可視光を得る手段としての将来性は疑問です。蛍光灯やHIDだけなら共存できるかもしれませんが、LEDの効率改善と大出力化,低コスト化が進めばこれに置き代わっていき、真空管が半導体に駆逐されたように10〜20年後には使われなくなっている可能性があります。特に近年の強い省エネルギー(結果としてのCO2排出削減)ニーズがその方向に強力に推進します。
しかし高温、スポット加熱用としてはハロゲンランプのように手軽にクリーン加熱できる対抗技術が他にあまり存在せず、今後も工業用加熱分野では応用が増加する事が予想されます。⇒レーザ加熱や電磁誘導加熱が高温クリーン加熱分野の一角を占めるでしょうが、それでも過半の用途ではハロゲンランプの方が安全性や手軽さ、効果、コストなどの総合判定で優位であると思われます。
それ以外にも可視光域〜赤外域までの幅広い連続スペクトルが必要とされる分野では最適な光源です。また対人間の効果で暖かさを含めた太陽の直射日光に最も近い感触を持つ、手軽に使える光源としてはハロゲンランプだろうと思います。
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真空電球とガス入り電球
電球の初期はガラスバルブ内の空間には何も入れない真空電球でした。真空はフィラメントの熱を奪わないので、その点では熱ロスの少ない電球ができます。しかし真空はフィラメントの蒸発に対して全く抑止力がなく、どんどん蒸発させてしまうので、高温にするとすぐにフィラメントが消耗して断線してしまいます。
そのため窒素のようなタングステンと反応しないガスやアルゴンのような不活性ガス(何とも反応しないガス)が封入されるようになりました。この封入圧力は高い方が有利なのですが大きなガラスバルブに高い圧力は封入できません(耐圧力の問題と安全性の問題)。従って通常の電球は点灯中の温度で1気圧(つまり常圧)前後になるようにします。この場合、常温での圧力は減圧です。
フィラメントは初期は炭素(カーボン)が使われました。炭素は融点は約3500℃と非常に高いものの、高温域での蒸気圧が高く、蒸発(昇華)が激しいため、あまり高温では使用できませんでした。フィラメントは高温ほど発光効率が高くなる(5500℃付近で最高効率)ので、より高温で使用できる材料が模索され、タンタル(融点2990℃)を経てタングステン(融点3400℃)のフィラメントが採用され、現在に至っています。これ以上の高融点材料としては炭化タンタル(融点3985℃),炭化ハフニウム(融点4000℃)がありますが、非金属なので加工が困難。円板状の発光体を高周波誘導加熱するタイプの特殊光源として存在した程度で一般照明用に採用されたことはおそらく無く、今後も無いと思います。
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不活性ガスの種類
ガラスバルブ内の空間に不活性ガスをいれると、その圧力で蒸発が抑制されると共に蒸発したタングステンが不活性ガス分子と衝突して直進できず、その周囲のタングステン蒸気圧が上がるので、この面でも蒸発が抑制され寿命が長くなります。
上記効果は重いガスほど大きく、更に重いガスほど対流が起こりにくく、フィラメントの熱を奪う事が少ないので、熱ロスが減ります。このように重いガスほど高性能のランプが作れます。不活性ガスは軽い方からヘリウム→ネオン→アルゴン→クリプトン→キセノン→ラドンとなります。アルゴンよりもクリプトン、更にはキセノン(Xe:クセノンとかゼノンと表記する場合がある)の方が高性能電球が作れます。その差は発光効率にして5〜10%ずつ上昇します。
それならば全ての電球にキセノン(ラドンは短半減期の放射性ガスなので×)を入れれば良いという事になりますが、ガスの価格が100倍とか1000倍になるために経済的には使いにくい物です。
その点、ハロゲンランプであれば内容積が小さい(100wランプで1〜2cc)ので、加圧したとしても10cc程度で済み、1L当たり数百円〜数千円の高価なガスでも経済的に使用可能となります。
ただし不活性ガスだけでは電気絶縁性が不十分な場合があります。特にフィラメント近くは不活性ガスも高温になるために電気を通しやすくなり、限界を超えるとフィラメント表面の最短距離でアーク放電が発生し、ランプは瞬時に断線します。
これを防ぐために、チッ素ガスを混合する場合が多いです。通常は数パーセントですが、フィラメントが短い場合、フィラメント長10mm当たり100v以上とかになる場合があり、この様な場合にはチッ素の割合をもっと増やすとか、更にはチッ素100%にする場合もあります。チッ素は不活性ガスではありませんが、タングステンとはほとんど反応しないので、ランプ用封入ガスとしては不活性ガスと同様に扱って問題ありません。
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封入ガスの電球バルブへの高圧封入法
封入ガスの圧力を上げることがハロゲンランプ長寿命化の最も強力な手段です。ハロゲンランプの高性能はほとんど高圧封入ガスによる効果だといって差し支えありません。加圧によりガス分子密度が上がるので蒸発したタングステンの移動が困難になり、フィラメント周辺の蒸気圧が上がり、飽和状態に近づくので蒸発が抑制されます。またガスの圧力自体もフィラメントの蒸発を抑制する効果があります。また高い圧力はフィラメント内部の不純物が作る気泡の成長を抑えて長寿命化に貢献するとも考えられています。(後で解説しますが、タングステン中には不純物というよりも意識的に添加したカリウムなどが存在します)
ランプ封入圧力を2〜3倍にすると寿命は約2倍になるようです。封入圧を上げると熱伝導による熱ロスが増えそうですが、気体は約0.1〜数気圧の範囲でほとんど熱伝導率に変化がないという性質があるので、加圧による熱ロス増加は大きくはないです。
ハロゲンランプの中に高圧でガスを封入する方法として一般的なのは、排気管(細いガラス管)付きのガラスバルブを使用し、封入ガスを導入すると共に液体窒素で冷却します。すると封入ガスが液化して体積が激減し、内部圧力が下がります。内部圧力が大気圧よりも低い状態であれば、その状態で排気管の一部を強熱して軟化させれば縮まって塞がり、そのまま引き離して切り離せます。この方法で高圧封入の電球が完成します。この方法ならばたとえ数十気圧の封入でも簡単にできます。
またこの液体窒素を使う高圧ガス封入方法は、ランプ内を排気して封入ガスを入れて封じる工程において封入ガスのロスをほとんどださずに効率よくランプ内に封入できることです。液体窒素を使わない場合は装置内に多くのガスを残してしまいます。これがキセノンガスだと、大きなコストアップ要因になってしまいます。
一般的な「排気−ガス封入」工程を図解します。 |
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ハロゲンガスについて
ハロゲンガスに関しては、黒化(蒸発したタングステンをハロゲンサイクルでもどしきれずにガラスバルブが黒くなる現象)を起こさない最小限の量を入れるのが基本です。一見矛盾のようですが、ハロゲンサイクルはハロゲンランプにとっては必要悪であり、できるだけハロゲン濃度を下げてハロゲンサイクルを穏やかにする方が寿命が長くなり、安定します。最低限必要とされるハロゲンの濃度はランプの種類,色温度などによって異なりますが、不活性ガスに対するモル比で0.1%程度です。
ハロゲンサイクルを穏やかにするという意味ではハロゲンの種類の選択も重要です。ハロゲン元素はフッ素→塩素→臭素→ヨウ素の4種類があり、後になるほど化学的活性が穏やかです。その点でヨウ素は優れているのですが、常温で固体のヨウ素はランプ内に封入する製造方法に難があります。ヨウ素の封入方法は不活性ガスに混合して入れる場合にはヨウ化水素の形で不活性ガスに混入するのが一般的です。
しかしこれは腐食性、毒性の問題で扱いが難しいものですし、ヨウ素の場合、水素の存在がハロゲンサイクルを抑制しすぎる場合があります。液体や固体のヨウ素化合物をランプ内に直接投入して封じる方が一般的であろうと思います。
しかしヨウ素は性質があまりにも穏やかなので、蒸発の激しいハロゲンランプ(自動車用などの高効率,高色温度で短寿命設計のランプ)ではハロゲンサイクルが追いつかない場合もあり、こうなるとガラスバルブが黒化します。つまりヨウ素は長寿命設計のランプには適するのですが、短寿命設計の高効率ランプには不向きです。
上記の様な理由で現在のハロゲンランプの多くはハロゲンとして臭素を採用しています。臭素は臭化メチレンなどの形で不活性ガスに混合しておけば安定であり、製造技術的に扱いやすい物です。臭化メチレンであれば臭素と同モル数の水素が同時に入りますが、これは臭素系ハロゲンランプにとって好都合な事です。
なぜなら水素が同モル数程度存在するとハロゲンランプ内では臭素は主に臭化水素(HBr)の形で存在し、これは臭素単体に比べ比較的安定な物質です。
この臭化水素(HBr)がフィラメント近くの高温で熱分離し、生じた単体の臭素だけがハロゲンサイクルを起こします。分離した臭素も低温部では水素と再び化合し、安定な臭化水素になります。これの利点はハロゲンサイクルによりフィラメント端部などの比較的低温部がハロゲンサイクルで削られ、寿命が短縮するという悪い副作用を抑制することです。
また臭化メチレンの封入は同時に臭素のモル数の1/2の炭素をランプ内に入れることになります。この炭素はランプ内に残った残留酸素に対するゲッターとして働く、と説明されている場合が多いですが、現実にはゲッター作用はあまり期待できません。炭素の存在はフィラメント低温部を脆化させて衝撃による断線などのトラブルを起こす原因になる事もありますが、それでも比較的害は少ない物質なので許容されています。
臭素は臭化メチレンなど炭素との化合物(有機化合物)という形以外では腐食性,安定性,毒性の面で扱いにくい物質が多いので、敬遠されます。ただし扱いにくい物質ではありますがホウ素との化合物(BBr3)などが採用された例はあるようです。ホウ素,珪素,アルミなどはランプ内への残留酸素に対する強力なゲッター(吸収剤)としての効果が認められます。残留酸素は後記するようにウォーターサイクルに関与し、多量に存在するとランプ寿命を著しく縮めます。
長寿命設計の臭素系ハロゲンランプではハロゲンサイクルを更に抑制する目的で水素のモル比を2〜3倍まで増やす事があります。この場合臭化エチレンなどが採用されます。しかし石英は高温では特に水素の拡散透過が増えるので、水素を長時間閉じ込めておく為にはバルブ温度を低めに設定する必要があります。 |
ハロゲンランプの封止について
石英ガラスの「超低熱膨張係数」という特徴は、封止が困難という欠点を伴います。つまりハロゲンランプでは封入ガスが漏れないように高度な気密構造にする必要があり、また同時にフィラメントに通電するためには金属で外部から石英バルブの中に電気の通路を作る必要があります。この金属と石英バルブの隙間からガスが漏れないようにするのが困難なのです。通常の埋め込みでは熱膨張率が合っていないとガス漏れが起こります。
一般電球では使用するガラスと電流導入金属の熱膨張係数を一致させて埋め込むだけで、比較的簡単に気密が保てます。しかしハロゲンランプでは膨張係数がかけ離れているので単純な埋め込みでは気密を保つのは無理です。そのため、ハロゲンランプでは高融点金属(モリブデン)を極めて薄い箔(25〜30μm)にし、それを石英ガラス管の中に入れて、石英管を外部から加熱軟化(約2000℃)させた上でプレス圧着するという方法で気密を保っています。(ピンチシール)
これは石英ガラスと金属では熱膨張係数を合わせる事ができない為に、金属の方を薄くすることで柔軟性をもたせ、無理やり石英ガラスの熱膨張に合わせているものです。そのため、石英ガラスにはかなりのストレス(圧縮歪)が加わります。これはモリブデン箔が厚いほど強くなり、強すぎると石英ガラスが割れたり、剥離してガス漏れを起こしたりしますので、薄い方が安全です。しかし薄いと電流容量が減りますので、おのずと適正なモリブデン箔厚さが決まってきます。それが前記した25〜30μmということです。
大電流のランプでは上記のモリブデン箔を使った封止(箔シール)以外の方法が採用される事もあります。この方法は熱膨張が少しづつ異なるガラスを多数段階的につなぎ合わせて(段継ぎ)熱膨張係数の差を克服しようとするものです。数十A以上のランプではこの方法が採用される場合がありますが、コストが高いのでハロゲンランプに適用される事はほとんどありません。
補足説明
封止用モリブデン箔は気密性を確保するために、その断面形状はエッチングによりナイフエッジになっています。この箔にタングステンやモリブデンの棒を溶接して電流導入棒としています。この溶接は高融点金属同士の溶接となり、困難です。溶接できたとしても脆化の問題があります。モリブデン棒とは同材質なので、直接溶接される場合もありますが、コストの制約が無ければ中間に白金(Pt)を挟んだ溶接の方がトラブルが少ないです。この白金はピンチシールの時の熱で再溶融し、溶接部付近に広がり溶接部の電気抵抗を安定化させ、更には高温による酸化を抑止します。ただし価格が高いので中間的な対応として白金クラッドモリブデン箔(幅1〜2mm)を挟んで溶接する場合もあります。
この溶接には「重ね抵抗溶接」という方法で溶接されます。溶接機としてはコンデンサー式やインバータ式等があり、そのまま溶接することも可能ですが、溶接部の酸化防止策として窒素をふきつけながら溶接したり、アルコールをつけて溶接したりする場合があります。アルコールは溶接時の熱で分解して水素が発生し、これが還元作用を持つので溶接部の酸化を防いで溶接できます。 |
モリブデン箔による封止の問題点
この封止用モリブデン箔は約350℃以上の高温にさらされると次第に酸化膨張していき、石英ガラスを割ったり、自身が焼け切れたりでランプ寿命を制限してしまいます。ハロゲンランプを使う上で、このモリブデン箔(正確にはモリブデン箔が外気と接触する部分)の温度が350℃以下を保つ事が重要です。通気の悪い器具などにつけると、正常な設計のランプでもこの部分が高温になってしまい、異常な短寿命になります。
ハロゲンランプによっては、やむおえずこの部分の温度が危険領域になる設計にしたものもあります。この部分の温度はフィラメントから来る熱と、モリブデン箔自身の電流による発熱と、それらに対する放熱条件の良否で決まります。フィラメントとの距離が非常に短くなってしまう設計のランプや、電流値の大きなランプが、この部分の温度が過大になる要因になります。最後の条件である放熱条件は、主に器具メーカも含めたユーザーサイドの問題である場合が多いです。
モリブデン箔の電流容量は一概には言えませんが、幅4o当たり10A程度です。そしてハロゲンランプによく使われるのは4o程度のモリブデン箔です。一般的に言って定格電流が10A以下のハロゲンランプがこの部分の過熱問題を起こすことはまれです。しかしこの部分の発熱は電流の2乗以上に比例して増大します(発熱は電流値をIとすればRI^2、つまり電流の二乗に比例して増大ですが、温度が上昇すると抵抗値Rも増加するため、電流の2乗倍よりも発熱は大きくなります)。
同じモリブデン箔であれば20Aのランプは5Aのランプの16倍以上の発熱をすることになります。そのため、定格電流が10Aを超えるランプは、モリブデン箔の過熱によるトラブルを起こしやすい傾向にあります。電流が大きいランプはそれなりに幅の広いモリブデン箔を使う必要があります。これが十分にできれば問題も少ないのですが、ランプのサイズなどの制約から十分な幅のモリブデン箔を使う事ができない場合も多く、このような場合には短寿命を承知で使うか、何らかの冷却手段を採ることになります。
大電流のランプの場合、幅の広いモリブデン箔を使うことになりますが、それに接続する外部リード棒(ランプ外部に向かうもの。主にモリブデン棒)の数も電流に応じて増やすべきです。太い棒1本で済まそうとすると、それの溶接部付近のモリブデン箔の電流密度が上がり、発熱が大きくなります。
そのため、電流5A当たり1本の割合で電流導入棒を設けるのが望ましいといえます。ただし10A程度までは1本の電流導入棒で済ませる場合があります。当社のラインヒータ用200v-5kwランプは外部リード棒を5本使っています。→このページ先頭の写真参照
タングステン,モリブデンの性質→各種金属の物性データ |
封止部の耐熱性を上げる対策
封止部自体の耐熱性(耐酸化性)を向上させる試みも行われています。一つは白金や金などの酸化しない金属をモリブデン箔及びそれにつながる外部リードピン(モリブデン棒)にメッキすることです。予めメッキしておくというよりもモリブデン箔とモリブデン棒の溶接時に白金箔を挟んで溶接します。するとピンチシール時の熱(約2000℃)により溶けて広がり、箔とピンの隙間に流れ込み、良好な接続状態となります。またMo箔表面にもある程度流れて白金メッキされるので耐熱性が改善します。そのため大電流ランプ(8A以上)や高温になる用途では白金箔を挟んでの溶接は必須です。
溶接部に挟む白金箔の代用として白金クラッドMo箔や白金メッキMo箔が、低コスト代替品として使われることがあります。しかしこれは白金の量が少ないので箔とピンの隙間に流れ込む様な事は期待できず、溶接部は点接触状態で発熱しやすくなります。またMo箔表面に白金が流れないので酸化防止効果も限定的です。従って8Aを超える様なランプには使用するべきではありません。
前記モリブデン棒に関しては、白金のクラッドMo棒を用いることもあります。これに白金箔を挟んで溶接すれば最も高信頼性な溶接部となります。大電流、高温品種で高信頼性が要求される用途にはコストが許せば採用するべきです。
他には封止後の外部リードMoピンと石英ガラスとの隙間に低融点ガラスを塗布、充填することです。粉末ガラスをアルコール等で練り、塗布してから焼いて隙間に流し込みます。膨張率が石英とは全く違うので常温ではクラックだらけですが、点灯中は高温によりこの低融点ガラスが液状化して隙間を塞ぎ、モリブデン箔の方への空気の進入を防ぎます。これも効果はありますが、限定的です。この低融点ガラスはフッ化物の配合されたものが好成績でした。
このように封止部の耐熱性向上にはさまざまな方法がありますが、完全な酸化防止方法は存在せず、やはり一番の方法は封止部を350℃以上にしない事です。この350℃以下という推奨値は設計寿命が2000時間クラスのハロゲンランプに対してのものです。更に長寿命設計のランプでは、その寿命に応じて300℃以下とか250℃以下という推奨値が採用されます。
封止部の放熱を良くして封止部温度を下げる方法としては放熱板を封止部に設けるとか、エアーの吹きつけなどにより冷却することが極めて有効です。当社のHSH100v-2kwではランプ封止部からt0.5の銅板でアルミベースに放熱させる構造としています。
また同様に当社HSHタイプで容量の大きなものは、アルミベースの中にマグネシア粉末を充填し、ランプ封止部の熱をアルミベースに逃がす工夫をしています。マグネシアは電気絶縁性に優れると共に熱伝導率も比較的良好なので、これによっても封止部の冷却効果が確認できています。→放熱粉充填による温度低下のデータ
※マグネシア=酸化マグネシウムMgO 融点2800℃ 比較的安全(医療分野では下剤として使用されている) |
石英以外のガラスを使ったハロゲンランプ
石英ガラスバルブはハロゲンランプのバルブ材料として必須条件ではありません。石英ガラスほどではなくても、そこそこ高温に耐えるガラス(アルミノケイ酸ガラス,ホウケイ酸ガラスの一種でモリブデンに膨張率を合わせたもの)を使い、箔を使わない通常の封止方法を採用したハロゲンランプも存在します。これらは大量生産品種で、コストを下げる手段として採用されています。ただしあまり大出力のハロゲンランプには適用できませんし、少量生産にも向きません。
結晶化ガラスを使ったランプやランプヒータも作られたことがあります。結晶化ガラスは石英ガラス並の耐熱衝撃性をもっています。しかしこれは石英ガラスの価格低下とともに採用されることは無くなったようです。
究極的な耐熱性をもっているのは透光性アルミナ管やサファイヤガラス(単結晶アルミナ)です。しかしコストの関係などで採用されることは稀です。また熱膨張率は大きいので耐熱性は高くても熱衝撃(温度の急変)で割れる可能性が有ります。
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フィラメントコイルについて
フィラメントはタングステン(元素記号W)が使われます。1本の線の状態で使われる事はまず無く、通常はコイル状にします。この理由の1つは使いやすい電圧−電力の範囲に持っていくには電球フィラメントとしての抵抗値をある値(100v100wでは100Ω,200v1000wでは40Ω)にする必要があり、それで計算すると例えば長さが1mとかの長さになります。これでは長すぎるので、コイル巻きにすることにより長さを縮めます。通常のシングルコイルで約1/10の長さになり、ダブルコイル(二重コイルcoiled coil)だと、更にその数分の一の長さになります。
フィラメントの熱損失(放射ではなく、対流,伝導で失われる電気エネルギー)はフィラメントの長さに大きく依存するので、コイルや二重コイルにすることにより、熱損失が大幅に減少し発光効率の向上につながります。
それ以外にもコイルフィラメントの利点は、その柔軟性により熱膨張の影響を自分自身で吸収できる事です。これが1本の直線だと常温ではまっすぐでも、点灯すると熱膨張により大きく曲がってしまいます。
タングステン線径をd,巻径をMDとすれば、MD/d≒3〜5が適正です。MD/d<2では熱膨張で変形しやすく、MD/d>8 では強度が弱くなります。またコイル巻きのピッチをPとすれば、P/d≒1.5が適正です。P/d<1.2 ではピッチ間ショートの危険が出ます。P/d>1.8では熱ロスが大きく発光効率的に不利です。
またコイル巻きにすると、コイルの内側が空洞を形成し、ピッチ間の隙間から出てくる光は一種の空洞放射になり、黒体放射に近くなります。これは照明利用には不利ですが、熱利用には若干有利(平均輝度が上がる)です。この効果はシングルコイルよりもダフルコイルの方が顕著です。しかもダブルコイルは太短いので、ミラー集光用ランプ(点集光)のフィラメントとして適しています。
タングステンの放射特性(分光放射率)は、可視光域で比較的高く、長波長になると放射率が小さくなる傾向が大きいです(ほとんどの金属がそうですが)。そのため、同じ温度ならば黒体(全ての波長域で放射率が100%)よりも発光効率がかなり高くなります。これがタングステンが照明用フィラメント材料として適している理由の1つでもあります。同じ温度でも炭素フィラメントは黒体に近いので発光効率はかなり低くなります。
前記した様にコイル巻きすると、この利点を若干スポイルしますが、他のメリットの方がはるかに大きいので、ほぼ例外なくコイルフィラメントが使われます。
タングステンの電気抵抗温度係数はかなり大きなものです。これは純金属の一般的特性でもあり、タングステンが特別というほどでもないのですが。
タングステンの温度に対する抵抗率の変化は下式て近似できます。
タングステン抵抗率ρ=1.77(T/1000)2+26.52(T/1000)-3.44 [×10-8Ωm]
ただし T は絶対温度 [K]
これから計算すると分かる通り、電球の点灯中のフィラメント温度(2500〜3200K)では比較的高い抵抗率を示しますが、常温では1/10以下の抵抗率にしかなりません。つまりハロゲンランプは常温での抵抗値が極端に小さい事になります。
そのため、常温のランプに通電した瞬間、10倍近い大電流が瞬間的(1/10秒間程度)に流れます(突入電流=ラッシュカレント)。この点灯瞬時の大電流(瞬間的な大電力消費)はハロゲンランプのフィラメント温度上昇を助け、瞬間的に点灯する、という特性に寄与しているというメリットでもありますが、一般的にはスイッチやランプ自身の寿命を縮めたりで不具合の方が多いです。
⇒突入電流の実測値
この影響を緩和するためにソフトスタート付きの電源を使ったりする場合があります。この電源は電源スイッチONしてもすぐには100%電圧がかからず、1〜3秒間程度の時間をかけて電圧をゼロから100%近くまで徐々に上げてくれるので、ラッシュカレントを抑える事ができます。
ラッシュカレント対策は理想的には定電流型の電源を使うのが良いとも言えます。ただしこの様な電源は一般的ではありません。 |
フィラメントコイルの設計
@要求仕様(電圧,電力,色温度)を確認。
A要求仕様によりシングルコイルかダブルコイルか、またショートかロングかを決める。
B要求寿命や用途によりフィラメントコイルの色温度を決める。
C封体(ランプのガラス管)サイズを決定します。低温部は250℃以上,高温部は800℃以下
D要求寿命,用途などを勘案して封入ガス圧(常温で0.8〜8気圧程度)を決定。
Eコイルの中間支持の有無,数量,方法などを決定
Fコイルリード線部の長さを決定。サブコイルをいれるかどうかも決定。
上記が決まれば下記のソフトでコイル設計を行う
タングステンコイルフィラメントの設計ソフト→PCO
専門用語の解説
MG:タングステン線の太さの単位 mg/200mm→200mmの長さの質量をグラムで表したもの
d:タングステン線の太さ Φmm MGとの関係 d=(MG/3020)^0.5
MD:マンドレル 巻き径Φmm。ダブルコイルの場合は一次巻径MD1 二次巻径MD2
TT:巻き数。 ダブルコイルの場合は一次巻数TT1 二次巻数TT2
ダブルコイルの場合は一次ピッチ%PP1=(P1/d)×100
二次ピッチ%PP2=(P2/(MD1+2d))×100
PP:ピッチパーセント PP=(P/d)×100 PP=100%で密着巻き
効率:発光効率Lm/w 色温度と深く関係するが、単純な関係でもない(熱ロスが影響)。
色温度:波長分布より定義される温度。タングステン場合、真温度より約50℃ほど高め。
寿命:断線するまでの寿命時間。平均値。多数点灯して残存数が半分になる時間。
光束:Lm(ルーメン)→光の量。1Lx(ルクス)は1Lmの光束が1m^2に入射したときの明るさ。
明るい照明は2000Lx程度。数万Lxだとかなりまぶしい。
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フィラメントコイルの製造方法
フィラメントコイルの中でもシングルコイルフィラメント(単巻)はタングステン線を芯棒又は芯線に巻き付けて形成します。多くの場合は巻きつけた後で、コイルを巻き戻し(切り離せばスプリングバックで自然に戻る)、芯棒や芯線を抜き取ります。
スプリングバックさせずに寸法安定のために熱処理を入れると、抜き取れなくなりますので、この場合には芯線を酸で溶解して除去する場合があります。しかしこの方法は溶解時に出るガスや溶解液の処理に設備と費用がかかります。
このようにして作ったコイルフィラメントも丈夫な設計のコイルならば、このままでランプにできないこともないですが、多くの場合は熱処理により歪を除去しないとランプになってから変形しますし、さらに強度の弱いコイルでは後で解説する2次再結晶を終了させる工程を経てからランプに組み込まれます。 |
2重コイルフィラメントの製造方法
2重コイル(ダフルコイル)の場合は、1次巻きと2次巻きをするのですが、最も一般的な製造方法は、1次巻きとしてモリブデンの芯線にタングステン線を規定のピッチで巻き付けます。そしてそれを一度熱処理(1000℃〜1600℃の水素雰囲気炉)します。これで連続で巻いたものを短く切断してもスプリングバックしなくなります。
次にこれを2次巻きします。2次巻きは多くの場合、芯棒に規定のピッチで巻き付けてから、抜き取ります。
次に端部を指定の形状に成形するなどしてから、高温(1600℃〜1900℃程度の水素雰囲気炉や直接通電による加熱など)の熱処理をします。その後モリブデン芯線を混合酸(水2:硝酸2:硫酸1)で溶解除去すると2重コイルフィラメントが得られます。
この方法はモリブデン芯線の除去にNOxや残留酸液,モリブデン塩などが多量に出るので、これの除去,無害化設備に費用がかかります。また1次巻き芯線にモリブデンを使う関係上、あまり高温の熱処理をするとタングステンの中にモリブデンが浸潤し、ハロゲンランプに悪影響を与えます。
そのため、せいぜい1900℃程度の熱処理しかできず、タングステンの2次再結晶を十分に終了させる事ができません。このままだとランプにして点灯した瞬間に残りの2次再結晶が起こり、フィラメントが変形する事があります。
そのため、モリブデン芯線を除去してから、更に高温の熱処理(2200℃程度)を行う事があります。
上記の様な欠点の無い2重コイルの製造方法として1次巻きしたコイル(芯線除去済み)を何らかの方法で2重コイルの形に成形し、高温(2200℃程度)にして2重コイルフィラメントを得る方法があります。
この2重コイルの形に成形する方法としては1次芯線より少し細いタングステン棒を2次巻きの形に成形(コイル状心棒)し、それに1巻きコイルを挿入してダブルコイルの形とした上で熱処理して固める方法です。タングステンのコイル状芯棒は熱処理後、抜き取り再使用します。
ただしこの方法は大量生産方式としては機械化しにくい難点もあります。またこの方法では作りにくい設計の2重コイルもあります。→MD/d<3のコイルなど。 |
タングステンの熱処理
前項で「2次再結晶」という言葉が出てきましたが、これは結晶粗大化とも言われる現象です。
タングステンは極めて融点が高く、しかも溶融して作ったタングステン塊は硬く脆いので加工が困難です。
そのため、タングステン線材は粉末冶金という方法で作られます。これはタングステンの粉末を固めて熱処理したもので、セラミックなどの製造方法に似ています。
この方法で作られたタングステンは細かい結晶の集積であり、この結晶間が滑ることにより比較的柔軟性があり、コイル巻きなどの加工もできます。
ただしやはり脆いので、加工時には200℃〜600℃に加熱しながら行う方が良い。間接加熱ならば当社の熱風ヒータSAHシリーズなどが適します。またコイリングマシンにはタングステン線に通電加熱しながら巻く機能が付いているのが普通であり、これを利用すれば安全にコイリングできる。加熱無しで巻くと切れやすいし、切れないまでもクラックを内在している場合があり、ランプ品質的にはこの方が問題です。
このようにして成形されたタングステンコイルは、細かい結晶の集合(多結晶構造)です。これが2000℃前後の温度になると細かい結晶が融合していき、一気に(1秒間程度)数万倍に成長して大きな結晶となります。この過程(2次再結晶)が起こっている間は非常に流動的となり、タングステンコイルに自重も含めて少しでも力が加わっていると、その方向に大きく変形します。2次再結晶が終了すればコイルは硬く脆くなり、高温強度も比較的高くなります。
つまり2次再結晶が終了するまでの1秒間程度は極めて流動的で変形しやすいので、この間、変形しないように何らかの方法で支えておく必要があります。その方法が前記したような方法です。
またこの2次再結晶のさせ方にも注意しなくてはなりません。同じタングステン材料でも急激に2次再結晶させたものとゆっくり2次再結晶させたものでは、再結晶後の結晶構造が異なります。ゆっくり2次再結晶させたものは結晶粒が長大になり、耐高温クリープ性が良好です。
高温クリープとは、高温で時間経過と共に加重方向にゆっくりと変形していく現象。主に結晶粒界の滑りに起因し、粘弾性変形とも言われる。フィラメント点灯中は非常な高温なので、フィラメントには高温クリープ現象が起こり、時間と共に自重で垂れ下がっていきます(業界用語はサグ)。この現象は問題になる品種とそうでもない品種があります。フィラメントの支持具間電圧でほぼ決まり、この電圧が20v以下であれば、ほとんど問題ありません。これが50v程度になると問題が出始め、100v前後では大問題になります。それ以上の電圧では、ほとんどランプは作れません。
耐高温クリープ性に問題があり、変形が大きくなっていくとコイルのピッチ間ショートでフィラメントが断線したり、石英バルブに接近しすぎて石英バルブが変形したり、ハロゲンサイクル異常で黒化したりといった各種トラブルを起こします。そのためにも2次再結晶のさせ方は重要です。
この耐高温クリープ性の良いフィラメントを作る熱処理方法を一般化して言えば、2次再結晶開始温度(約2000℃)付近で10秒間程度保持し、その後(2次再結晶開始温度+300℃)以上まで上昇させて1秒間以上保持し、完全に2次再結晶を終了させて完了とする方法です。
補足説明
タングステン線が2次再結晶してできる結晶の形で耐高温クリープ性が大きく異なります。一般的には線の方向にからみあった長大な結晶ができるものが良いとされています。この様な結晶を作る上で重要なのはタングステンの製造工程で微量のカリウムその他を添加することです(ドーピング)。ハロゲンランプ用のタングステン線はほぼ例外なくドーピングされたタングステン線です。この線材を使うと共に前記した2次再結晶のさせ方に注意して製造するとフィラメント変形の少ない優秀なハロゲンランプが作れます。
ただしドーピング量が多くなると2次再結晶開始温度が高くなる傾向があります。過大にドーピングされてしまったタングステン線は2200℃といった高温でも2次再結晶が完全には終了せず、ランプになって点灯すると変形を始めるものもあります。このように性能,品質を安定させるにはドーピングの質,量共に重要です。
このドーピングにより混入されたカリウム等の微量元素は良好なタングステンの結晶構造(からみあった長大結晶)を作ると共に結晶粒界に集まり、微小な気泡を形成します。これは結晶粒界の滑りを防止し、フィラメントの高温クリープを抑えます。
しかしこのドープによる気泡は長時間経過すると次第に集合し、大きな気泡をフィラメント内部に形成するようになります。これはランプ寿命を制限する要素になりまが、ハロゲンランプの封入ガスは高圧なのでこの気泡(ドープ孔)の成長拡大を抑制します。この点でも高圧の封入ガスはランプの長寿命化に貢献していると考えられています。
尚、この気泡の中の不純物はそのうちランプ封入ガス中に火山の様に噴出しますので、封入ガスのハロゲンバランスが崩れ、黒化などの原因になり得ます(カリウムなどのアルカリ金属はハロゲンと強固に結合し、ハロゲンサイクルを阻害する)。点灯開始して数百時間経過後に発生する黒化はこれが原因の一つに上げられます。
また高温クリープ現象によるフィラメント変形はフィラメントそのものの性質だけで決まるものでもない事が分かっています。ランプ内に酸素や水を多く残留させてしまった場合、点灯中にハロゲンサイクルと共に後記するウォーターサイクルが起こり、フィラメント表面が激しく蒸発→,再付着を繰り返すためにタングステン線表面が変形に対して抵抗しなくなり、高温クリープ現象が大きくなることがあります。 |
タングステンコイルの表面処理について
フィラメントコイルはこのまま使う場合もありますが、ランプに組み込む前に洗浄処理して不純物や酸化を除きます。最終的には水素中で還元熱処理を行います。
ますタングステンコイルは10%NaOH水溶液で10分間程度の煮沸するのが一般的です。表面のエッチングが必要な場合などは5%HF(フッ化水素酸)処理とかアルカリ性フェリシアン化カリウム水溶液で表面の腐食処理で浄化します。終了すれば、薬液を完全洗浄します。
その後、コイルフィラメントに支持具(アンカーとかサポータと呼ぶ)を付けたり、モリブデン箔や外部リード棒を溶接します。
その後もう一度NaOH処理を入れるか、又はそのまま水素雰囲気炉(1000℃)に入れ、酸化物を還元します。水素はドライ水素を使う場合とウェット水素を使う場合があります。ウェット水素は炭素を除去する能力があります。 |
ハロゲンランプの石英バルブについて
ハロゲンランプのガラスバルブには一般的に石英ガラスが使われます。石英ガラスは高温に耐えます- - - ランプとしての最高使用可能温度は約900℃。ただし800℃を超えないように設計すべきであり、700℃以下が不純物放出も少なく寿命のバラツキ等が少なく安定します。
石英ガラスを採用したこともあり、ハロゲンランプは一般電球の容積比約1/50が可能になります。
肉厚も約1o程度と厚い物が使われます。この肉厚の厚さとバルブの小ささで、ハロゲンランプのバルブは50〜100気圧まで耐える物になっています。
ただし安全率を見て一般的なハロゲンランプの封入圧力は常温で3〜4気圧、高圧の品種でも6〜7気圧です。これが点灯状態になると封入ガスの熱膨張で10〜20気圧になっていると考えられます。
石英ガラスは異常とも言えるほど熱膨張率の低い材料です。通常のガラスや金属の数十分の1でしかありません。そのため極めて熱ショックに強く、約900℃の高温の石英ガラスに水をかけても耐えるほどです。通常のガラスは100℃前後の熱ショックにしか耐えません。パイレックスやテンパックスでも約180℃です。
石英ガラスは各種の不純物を含みますが、水酸基を多く含むものはハロゲンランプ用のバルブ材料として好ましくありません。これらは点灯中の高温でランプ内空間に染み出し、ランプ内でウォーターサイクルを起こし短寿命不良のランプになります。尚、バルブ温度が600℃以内であれば、このような心配はあまり必要ではありません。
ウォーターサイクルとは、まず水分子が点灯中の高温のタングステンコイルを酸化します。すると酸化タングステンと水素になります。酸化タングステンはすぐに昇華してコイルから蒸発します。その酸化タングステンは比較的低温部で先に生成した水素で還元されてタングステンに戻ります。すると遊離したタングステンと水になり、この水は再度コイルを酸化して酸化タングステンと水素を生じます。つまり少量でも水があればこのウォーターサイクルを起こし、タングステンフィラメントが結果的に激しく蒸発します。
ハロゲンランプの場合にはこれと全く逆の働きをするハロゲンサイクルも同時に起こっているので、フィラメントは一見蒸発していないようにみえますが、実際にはコイルはウォータサイクルによるタングステンの激しい蒸発とハロゲンサイクルによる再付着が起こっており、短時間で表面は凹凸となり、断線に至ります。
このような問題を回避するには、まず水酸基の含有率ができるだけ小さい石英ガラスを選ぶ必要があります。酸-水素炎で溶融させて作った石英ガラスは100ppm以上の水酸基を含み、高温となるハロゲンランプ用としては不適です。電気溶融で作った石英ガラス(GE社の214石英など。現在はGE社は石英管部門を売却している)はこの値が数ppm以下となり優秀です。さらに低い数値が必要な用途向けには熱処理でOH基を放出させ、1ppm以下にした品種もあります。
石英とほぼ同等の性質を持つバイコール(コーニング社商品名)は多量の水酸基を含むので、高温のハロゲンランプ用としては不適です。
この水酸基の問題は原材料としての石英ガラスの選択が適切であったとしても、それをハロゲンランプに加工する段階で、石英の内部に浸透させてしまう事があり、注意が必要です。例えばガスバーナの炎には多量の水分が含まれているので、これで加熱して加工すると、多少は水酸基の増加があります。これらを完全に除去するには、石英ガラス加工後に長時間の高温熱処理(800℃以上)で除去するしかありません。
このような問題点を回避する手段の一つとして、前記したような酸素用ゲッターをランプ内に入れるのが有効な場合があります。ただしゲッターを使わなくても水,水酸基,酸素などを極限まで除去、高純度化すればゲッターに頼らなくても高品質,高性能のハロゲンランプは製造でき、その方が正道であるという考え方もあります。
激しいウォーターサイクルの起こったハロゲンランプに起こる特徴的な現象としてフィラメント低温部に針状の結晶が成長するのが観察されます。このようなハロゲンランプは極めて短寿命(定格寿命の1/5程度)です。しかし石英ガラスに含まれる水酸基程度では、このような激しい現象にはならない場合が多く、このようなランプが多発するとすればランプ製造段階での高純度化ができていない(排気不良→水分や酸素の残留)と判断すべきです。
石英ガラスは緻密な構造ではありますが、他の物質同様、多少は各種ガスなどを浸透,透過させます。これは温度との関係が大きく、石英ガラスの場合800℃前後から著しく増加します。ハロゲンランプのバルブ温度を800℃以下、できれば700℃以下にするべきなのは、この性質からくるものです。800℃を超えると石英ガラスの中に埋もれていた各種物質が染み出してきますし、逆に封入ガスの成分などがガラスに染み込んでいきます。このようにしてハロゲンランプ内部のガスバランスが変化しますと各種トラブルの原因になります(寿命の短縮、黒化など)
加熱用のハロゲンランプは必ず石英ガラスを使いますが、小電力の照明用ランプの場合には硬質ガラス(アルミノ珪酸ガラス,硼珪酸ガラス)を使う場合があります。これらのガラスは配合によりモリブデンやタングステンと熱膨張率を合わせる事ができ、箔を使わなくても封止することができるので量産しやすいというメリットがあります。しかし量産でのコストダウン以外のメリットは無く、耐熱性や耐熱衝撃性はかなり劣ります。 |
石英ガラスの表面洗浄処理
石英ガラスに汚れがある場合、又はよごれている可能性がある場合には洗浄処理をします。加工前の石英ガラス原管がよごれていれば、それをそのまま加熱加工すると汚れ成分をガラス中に浸潤させてしまい、透明度の悪いガラスになったり、強度が低下したり、ハロゲンサイクルの阻害要因になったりします。そのため加工前の原管を洗浄処理する場合があります。
また加工によって付く異物もあります。また異物ではないですが、蒸発(昇華)した石英が再付着したもの(シリカ)も透明度を下げ、また見栄えも悪くなります。
この様な場合も洗浄処理を行います。通常の洗浄剤ではとれない場合が多く、通常は表面を溶かして汚れごと除去します。これにはフッ化水素酸(HF)による表面エッチングが一般的です。ただしHFは非常に危険な薬品なので、より危険の少ないフッ化アンモニウムが使われる事の方が多いでしょう。
その後焼き飛ばし(ガスバーナーで1000℃程度まで焼く)を行う事もあります。
フッ化水素酸を使っていると、事故が起こる事があります。これが危険な理由の一つが、フッ化水素酸は身体に付着しても、すぐには症状が現れず数時間後に痛みが出てくるため発見が遅れる事です。そして皮膚表面だけではなく、かなり深くまで侵され壊死する場合もあります。多量に浴びると致死し、この原因メカニズムとしては主に人体のカルシウムがフッ化物になることによる低カルシウム血症です。
5%以下の濃度ならば少しくらいならば手足に付いても、すぐによく洗えば大丈夫な場合もありますが、高濃度のフッ化水素酸を身体に着けてしまったらすぐによく洗い、患部にグルコン酸カルシウムを塗布し医者に行きます。こぼれた薬品の中和剤は水酸化カルシウム(消石灰)です。尚、5%程度のフッ化水素酸でも身体についたままにして放置すると激しい症状が出ます。 |
石英ガラス加工
石英ガラスの加工はガスバーナ等で高温(約2000℃)にしてカーボンや金属の棒などを押しつけて変形させたり、金属製の金型でプレスしたりして加工します。
ガスバーナとしては酸素-水素炎が理想的です。ガスバーナには酸素と水素を予め混合しておき、それをノズルから高速て吹き出して燃焼させる「根元混合型ガスバーナ」と、酸素を空気中に吹き出させ、それに水素を巻き込ませて混合させると同時に燃焼させる「先端混合型ガスバーナ」があります。後者の方が炎の流速が小さいので、広い面積の石英加工に適しています。
根元混合型はノズル内を高速流にすることで燃焼がノズル内に進入するのを防いでいますので、基本的に炎も高速流となります。このガスバーナ形式は小さい面積のスポット加熱に適します。
もしこの根元混合型ガスバーナでノズルの流速が低下すると燃焼がノズル内にまで入り込み(逆火現象)、こうなるとガスバーナ内の酸素-水素混合気体が一気に爆発燃焼して大きな爆発音が発生します。またこの状態で放置するとガス混合器内で燃焼が続いている場合があり、そうなると混合器付近が焼損する事になります。
石英加工にも経済的な理由からメタンガスやプロパンガスと酸素の混合炎が使われる事もあります。この場合、これらの燃料ガスは水素ほど迅速に酸素と混合されず、また燃焼温度も低めなので、それをカバーするために「根元混合式ガスバーナ」がほとんどです。
そのため、かなり扱いにくいガスバーナになります。広い面積を加熱するには、多数のノズル穴で構成されるガスバーナとなります。そして加熱ポイントはノズルからかなり近く(10mm程度)炎の流速が早いので加熱軟化したガラスを押して変形させやすい傾向があります。またこのガスバーナは、いきなりガスを止めるとノズルの流速が低下して逆火し、爆発音が出ます。
これを回避するには先に酸素の方をゆっくりと止めてから燃料ガスを止めるか、又は先に燃料ガスを止めて吹き消えさせる方法です。どちらにしても流速が落ちるので逆火が起こりやすくなりますし、迅速な遮断動作もできません。迅速な遮断動作をさせるには、燃焼ガスを止めると同時にエアーを混合器に吹き込み、ノズルの流速を低下させずに吹き消すことです。
このガスバーナは点火も注意が必要です。やはり燃料ガスを先に出して火をつけ、次に酸素を出すのか普通ですが、このとき赤い炎が出ますし、迅速な着火もできません。燃料ガスと酸素を予め設定しておいた流量で同時に出し、点火専用バーナ(水素炎)て点火するという方法が頻繁な点火に対応できます。
ガラスが高温になり、十分に軟化すれば加工することになります。カーボン材ならば問題ないですが、金属金型でのプレス加工などでは金属に石英ガラスが付着する場合があります。これを防ぐ離形材としてはカーボンが有効です。カーボンは高温の石英に接すると、それを還元してCOxを生じ、強力に離形します。カーボンの補給方法としては一般的には油を塗布します。
石英を強熱して軟化させると、その周辺部にシリカが付着し、白く濁ります。これは加熱により石英が蒸発し、それが低温部に付着するものです。これをできるだけ防ぐには、シリカが付着しやすい部分にエアーやガスバーナの遠火を当てるといった方法があります。
また石英の蒸発は還元炎の場合にひどくなります。これは石英が還元されてSiOになり、それが蒸発しやすいためと考えられます。したがって加工用の炎は酸素過剰炎にしてやればシリカは着きにくくなります。しかしこのような炎は流速の割に火力が弱くなり、また還元作用が無いことから封止作業などではモリブデン箔が酸化して切れやすい、といった難点があります。
いったん着いてしまったシリカは酸素過剰炎で焼き飛ばすか、前項のHF処理なとで除去することになります。ただし封止後のランプにHF処理はできません。
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石英ガラス加工後の歪み除去
前記のような石英ガラスの加工を行うと、必ずと言っていいほど石英ガラスには歪が残ります。歪とは石英内部の分子間に圧縮力や引っ張り力が残留した状態です。歪は偏光を利用した「歪み計」で視覚的に確認できます。
この残留歪は石英ガラスの強度を低下させるので、ランプの点灯中の内圧に耐えられずに破裂したり、クラックの発生を招いて封入ガスの漏出によるランプの初期不良も招きます。またランプ交換作業の時に、たいした力も加えていないのに割れてしまうといったことも起こります。
残留歪をできるだけ生じさせないためには、前記したような石英加工直後に加工部を含む広範囲に炎をかけて再加熱してやり、その後できるだけ急冷しないようにすることで、かなり残留歪を少なくできます。この作業にはプレス加工などで生じてしまった小さなクラックを焼き丸めて無害化するというメリットもあります。尚、プレス加工はできるだけ短時間で行う必要があります。長時間プレスすると急激に石英の温度が下がり、クラックや強い歪を残します。
完全に残留歪を除去するには、そのガラスの徐冷点(石英は約1200℃)以上の温度にしてやり、十分な時間(徐冷点では15分間)をかけて歪を除去します。そして冷却する場合には歪点(石英は約1100℃)まではできるだけゆっくり時間をかけて温度を低下させます。
特別な歪除去の炉を備えなくても、このような点を注意して作業すれば実害のない程度には歪を除けます。しかし歪計で確認できないほど完全に除去するのは困難です。完全な除去には歪除去用の炉が必要であろうと思います。
石英ガラスは大きな歪は残りにくいので、この残留歪を軽視しがちですが、注意しないと品質の低下、トラブルの発生を招く原因になります。
石英ガラス以外のガラスでは、この残留歪を無視して加工すると必ずクラック(割れ)が発生するので、十分な歪除去工程は必須です。そのため、かえって石英よりも油断による問題発生は少ないでしょう。
補足説明
ガラスは引っ張り力に弱いので、残留歪の内でも特に「引っ張り歪」が問題になります。余談になりますが、自動車の窓ガラスなどに採用されている強化ガラスというものはガラス表面に強い圧縮歪を意識的に残したものです。このガラスに曲げの力が加わった場合、片側表面は圧宿力、反対側は引っ張り力を受けます。しかし強化ガラスは予め表面に圧縮歪が残してあるために、引っ張り力はこれを解消する方向に働き、引っ張り力がキャンセルされます。
ガラスは圧縮力には非常に強いので、これにより非常に強いガラスとなっています。このガラスは前記した通り表面に強い残留歪を残しているために、もし1ヶ所でも割れると力のバランスが崩れ、一気に全体が粉々に割れてしまいます。しかし割れた破片は角が丸いので、怪我はしにくいものです。 |
石英ガラスの失透現象
石英ガラスを高温で使用する場合、塩分などの付着があると、それを核にして結晶化が進み、透明度が低下すると共に強度の低下を招きます。
これはハロゲンランプにとって確かに重大な問題ではありますが、世間的には過大にアナウンスされている傾向があり、販売店がクレーム処理の口実に利用しているケースもあります。この失透現象でランプが完全にダメになることは、ほとんど無いと言ってよいと思います。失透はよほど高温でなければ多少の手の油分(実際に有害なのは塩分)の付着程度で大きな失透を起こすことはありません。そして大部分のハロゲンランプは大問題になるほど高温になるような危ない設計にはなっていません。
しかし完全にだめにならないまでも多少でも失透や汚れの焦げつきが起こると明るさや集光加熱能力の低下原因になりますので、やはり基本通り石英バルブには素手で触れないこと、触れてしまった場合にはアルコールを含ませた布やティッシュペーパで拭き取るようにしてください。
海水のしぶきなどが常にかかる危険のある場所での点灯(海上の船など)では失透現象には注意する必要があります。灯具にいれて保護できればよいのですが、できない場合は失透の進行を抑えるためにガラスにコーティングしたり、ガラスバルブ温度を低め(650℃程度以下)に設計します。
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ハロゲンを使わない石英タングステンヒータ
ハロゲンランプヒータと見分けがつきませんが、石英管の中にタングステンフィラメントを配したヒータでも、ハロゲンを入れていないランプヒータが存在します
色温度が2200K(K→ケルビン:絶対温度の単位。℃にプラス273した値)程度又はそれ以下のランプヒータはハロゲンを入れる必要はありません。そのような色温度ではヒータの設定寿命内(5000時間とか20000時間)でのタングステンの蒸発はわずかであり、ハロゲンサイクルは不要です。(従ってフィラメントはほとんど消耗しない→寿命はこれによって制限されるのではない)
しかしウォーターサイクルが働くとタングステンの蒸発が極端に大きくなるので、このサイクルはカットしてやる必要があります。ウォーターサイクルをカットするには水をランプ内から完全に取り除く事ですが、そのうちの酸素または水素のどちらか一方を取り除くだけでもこのサイクルは止まります。
この目的でランプ内に入れる物質をゲッターと言い、主に酸素を除くもの,主に水素を除くものなどがあります。水をランプ内に残さないようにランプを作ればよいだけのことですが、現実的には水の残留をゼロにすることは不可能です。従ってこのようなハロゲンを含まないランプヒータの製造にはゲッターの採用は不可欠です。ハロゲンランプではない一般の電球も必ずゲッターを使用しています。
ゲッターとして一般電球に多用されているのはジルコニアです。しかしハロゲンランプヒータのような形をしたヒータの場合はこれは使いにくいので、タンタル(Ta)が使われる事が多いです。タンタルは鉛に似た柔らかい高融点金属で、暗赤熱状態(約700℃)でその体積の数百倍の水素を吸収しますので、フィラメントの支持部品にこの金属を使ってゲッターの働きをさせています。
もちろん2200K以下のランプヒータでもハロゲンを入れているものもあります。ハロゲンを入れればウォーターサイクルを阻害する方向に働くので、残留水分が少なければ長寿命なヒータも作れます。しかしこれはハロゲンを入れる方がコストが低い、という理由がほとんどです。寿命が5000時間〜20000時間以上とかの設計で高信頼性のランプヒータを作るには、ハロゲンを入れるよりも、ハロゲン無しでゲッターを入れる方が安全す。 |
交流点灯と直流点灯、低電圧点灯
ハロゲンランプは交流でも直流でも点灯できます。しかし一般的には交流点灯の方が良いと言えます。直流点灯の問題点はランプが断線したときの挙動です。直流は電流が止まりにくく、断線後もアーク放電がランプ内で持続する場合があり、この熱でガラス管が軟化して曲がったり膨らんだり、最悪の場合は破裂します。
従ってライン電圧(100vとか200v)のランプでは必ず交流点灯としてください。低電圧ハロゲンランプはこの心配がほとんど無いので、交流でも直流でもかまいません。
ハロゲンランプをその定格電圧よりも大幅に低い電圧で点灯すると「ガラス管温度が上がらないのでハロゲンサイクルが働かず、問題が発生する」と考えがちですが、電圧を下げるとフィラメント温度も下がりますのでフィラメントの蒸発もほとんどなくなり、ハロゲンサイクル自体が不要になります。つまり低電圧で点灯しても問題ありません。
微細なフィラメントの場合は直流点灯の場合、電界の影響でコイルピッチ間に針状結晶を成長させる一因になることが有り、寿命短縮の一因になりえます。交流点灯の方がこの様な問題も起こしにくいので、この観点からも交流点灯が望ましいと言えます。
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ハロゲンランプ内部の化学反応と制御方法
ハロゲンランプ内では各種の化学反応が進行していると考えられます。
@ハロゲン−タングステンサイクル
低温部空間に蒸発してきたタングステン原子とハロゲンが化合し、ハロゲン化タングステンになります。ハロゲン化タングステンは蒸気圧が高い(蒸発しやすい。250℃程度の比較的低温でも蒸発して気体の状態を保つ)ので、沈着せずに空間を漂い、そのうちフィラメント近くに達すると、その高温により熱分解してタングステンとハロゲンに分離する。その結果タングステンは蒸発してもそれがフィラメント近くまで運ばれてフィラメント周辺の蒸気圧が上がり、フィラメントの蒸発を抑制する。
これは湿度が高いと水が蒸発しにくく、物が乾きにくいのと同じ事。熱分離して発生したハロゲンは再利用されて、低温部でまたタングステンと化合するというサイクル(ハロゲンサイクル)を行う。
Aハロゲン−水素サイクル
ハロゲンランプには意図的に水素を入れる。その量はハロゲンモル比で1〜3倍である。比較的低温部ではハロゲンは水素と化合し、ハロゲン化水素の形で存在する。フィラメント近くではその高温により熱分解し、ハロゲンと水素に分離する。ハロゲンサイクルに必要な単体ハロゲンはこのように生成し持続的に供給され、低温部で消滅(水素と結合)するというサイクルが起こっている。低温部では比較的安定なハロゲン化水素の形で存在するため、フィラメントのリード部など低温部を腐食しにくくなる。
B炭素サイクル
ハロゲンランプ内には多くの場合、炭素が存在する。これはハロゲンを有機化合物の形で入れる事が多いためである。ハロゲン化合物は不活性ガスの1000〜3000ppm程度入れるので、炭素もそれに近いモル数がランプ内に存在する。(ハロゲン化合物は臭化メチレンCH2Br2などが多い)
ランプ内に酸素が存在しなければ炭素は低温部に沈殿し、さほど大きな害は無いが、まれに特定温度部のタングステンを炭化し脆くなり衝撃で断線する事がある。酸素が存在する場合、炭素の一部は低温部では2酸化炭素、高温部では1酸化炭素の形で存在する。高温部で酸素を分離するので、これが次項のウォーターサイクルに関係してくる。炭素の存在は酸素を一時的に捕獲してウォーターサイクルを緩和する可能性は有るが、止めるほどの効果は無い。
Cウォーターサイクル
ランプ内に水分子が存在すると、高温のフィラメントを酸化し、酸化タングステンと水素に分離する。酸化タングステンは蒸発しやすいのですぐに蒸発する。それが比較的低温部で水素により還元され、タングステンと水になる。この水がまたフィラメントを酸化する---というサイクルが起こる。これはタングステンの蒸発を非常に早める結果となり、ランプ寿命を著しく縮める。ハロゲンランプの場合、ハロゲンサイクルも同時に起こるためにマクロ的にはフィラメントは蒸発していないように見えるが、ミクロ的には激しい蒸発と再付着を繰り返しており、ランプ寿命は著しく短い。このようなランプの所見は、フィラメントの比較的低温部に腐食(キラキラしている)が見られる。著しい場合には針状結晶の成長が見られる。このようなランプの寿命は1/2〜1/10に短縮する。
このため、ハロゲンランプや白熱電球はこのウォーターサイクルを止める事が最重要課題となる。ハロゲンランプは正常とされるものでも、このウォーターサイクルはミクロ的には多少は起こっており、極端でなくても寿命を縮めている場合が多い。
一般白熱電球の場合には各種のゲッターをランプ内に入れることにより酸素又は水素又はその両方を捕獲させる事でウォーターサイクルを完璧にカットできる。そのため一般白熱電球の方が寿命の安定性が良好で、著しく悪い製品が少ない。
ハロゲンランプの場合にはハロゲンとの関係が有るので、ゲッターを入れることが簡単ではない。しかし不可能ではない。安定した長寿命のハロゲンランプを作るにはゲッターの採用は不可欠とも言える。
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ゲッター入りのハロゲンランプ
ランプ内にある種の物質を入れ、水又はその分解物(酸素,水素)の一方でも捕獲させて不活性化できればウォーターサイクルをカットする事ができる。
この物質をゲッターと呼んでいる。これには水素吸収型と酸素吸収型が考えられる。どちらかでも無くせばウォーターサイクルは働かない。しかし水素はハロゲンランプにとって低温部腐食を防ぐという有用な機能があるので、ゲッターとしては酸素吸収型が望ましい。
ゲッター材に要求される性質としては、ランプ内でハロゲンと穏やかに反応してガス化し、フィラメント近くに運ばれること、そしてそこで酸素と結合すると安定な蒸発しにくい固体酸化物となり、沈着してハロゲンとは再反応しないこと。
候補としては周期表からB,Mg,Al,Si,Pあたりが考えられる。Bは酸化物の安定性が悪く(蒸気圧が高い)また化合物が毒性の場合が多く扱いにくい。Mgはハロゲンとの反応性が強すぎ、また発火しやすいので扱いにくい。Pはハロゲン化しにくく、酸化物の安定性も良くない。
そこでまずAlを検討。市販のアルミ箔を0.8mm角程度に切って注射針で吸引捕獲して排気管から挿入してから通常の排気ガス入れ作業をする。このAlゲッターは非常に効果が高い。あるランプでは平均寿命で約2倍弱、最低寿命は4倍以上の改善効果があった。Alゲッター採用ランプの特徴として、数十時間点灯するとタングステンの支柱等(フィラメント近く)が黒くなる。これはアルミの還元作用が強い為にCOやCO2を還元して炭素粒が発生し、それが付着するためと考えられる。実害はない。ランプ内のAlは低温部でハロゲン化されて気化し、フィラメント周辺で熱分解してAlの蒸気が浮遊している状態になる。しかしゲッターを入れる方法が面倒なのと、ハロゲンとの反応性が強いので、量を正確にコントロールしないとハロゲンサイクルを阻害してランプが黒化する。
そのため比較的ハロゲンとの反応性が弱いSiを次に試した。Si塊を入れるのは手間がかかるので、石英を水素で還元する方法を検討。水素を入れてランプの石英ガラスの一部(チップ切り部など)を2000℃近くまで強熱する事で石英が還元され、SiOが発生する。これは単独でも酸素を捕獲するゲッターとして働く。またSiOは単独でなければ次第にSiに変化する。2SiO→SiO2+Si
SiOを生成させる際には水が発生するので、フィラメント等が赤熱していると酸化されて酸素がランプ内に残り、ゲッターの意味が無くなる。つまりゲッター生成には加熱する場所が重要であり、金属が近くに無い排気管(チップ管)部はその有力候補。しかし排気管にタングステン支柱の一部が入る品種には適用しにくい。チップの所にサポータリングが来るJタイプ等も同様(この場合は偶数個のサポータにすれば解決するが)。
具体的には排気作業時に水素を0.9気圧ほど入れて排気管の一部を少し変形させる程度まで焼くと黄色い物資が内面に付着する。これがSiOであり、このとき同時にH2Oも生成しているので、それを十分に排気してランプ内から除去し、次にハロゲン混合ガスをランプ内に入れ、加圧する場合は液体窒素で冷却しながら排気管を切り離す。この方法で作ったランプの排気管痕は少し黄色みが有る。
SiOゲッターはAlほどの強い効果はないが、比較的安定で量がアバウトでも黒化しにくい。作業性もよい。SiOゲッターは自動車球等にも適用する事ができる。平均寿命の改善と、特に異常に短い寿命のランプを無くすことに効果がある。
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[参照]
光加熱の物理 光加熱の光学 点集光型光加熱 線集光型 電源,コントローラ
fintech.co.jp
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